本文へスキップ
開発事例

詐欺の手口は、読んでも防げない ―「特殊詐欺撲滅シミュレータ」

詐欺の手口は、読んでも防げない ―「特殊詐欺撲滅シミュレータ」

「自分は引っかからない」と思っている人ほど、体験すると黙る。

「オレオレ詐欺に気をつけましょう」。この一文で防げた被害って、たぶんほとんど無いと思うんですよね。

特殊詐欺撲滅シミュレータの画面

「還付金があります」「口座が凍結されます」——文字で読めば誰でも怪しいと分かる。それでも減らないのは、本物の詐欺が会話の流れの中で少しずつ信用を積み上げてくるからです。知らないから引っかかるんじゃない。知っていても、その場では使えない。

特殊詐欺撲滅シミュレータの4コマ漫画

4コマ漫画で見る開発ストーリー

この記事を、ショート漫画にしました(タップで再生・音が出ます)

詐欺の手口は、読んでも防げない ―「特殊詐欺撲滅シミュレータ」を4コマ漫画にしたもの

詐欺の手口は、読んでも防げない ―「特殊詐欺撲滅シミュレータ」を4コマ漫画にしたもの

宜野湾でスマホ修理をやっていると、修理のついでに詐欺の相談を受けます。カウンター越しに画面を見せられて「これ、本物ですか」と聞かれる。あれを何度も繰り返すうちに、チラシとは別のものが要るなと思って作ったのがこのシミュレータです。

割れた画面は12年見てきたので直せます。でも、持っていかれたあとのお金は私にはどうにもできない。修理屋として一番何もできなくなる相談が、これなんですよね。

1チラシでは伝わらないもの

自治体の啓発チラシ、あれ本当によくできています。手口も被害額の統計も相談窓口の番号も全部載っている。真面目に作られています。

よくできた啓発チラシでも止められない人がいるという場面

よくできた啓発チラシでも止められない人がいるという場面

でも、あれで防げるのは「知識が足りない人」だけなんですよね。引っかかるのは、知識はあるのにその場の流れで、判断を相手に預けてしまった人です。

店で見ている限り、詐欺のSMSを持ってくる方はだいたい「これ、怪しいですよね?」と言いながら来ます。怪しいことは、もう分かっている。分かっているのに一人では決めきれなくて、背中を押してほしくて持ってくるんです。預ける相手が悪いだけ。

これ、修理の相談とまったく同じ形なんです。人は決められないんじゃなくて、一人で決めるのが怖いだけなんだと思います。

だから読ませるのをやめて、体験させる作りにしました。AIが詐欺師役をやり、電話・LINE・InstagramのDM・動画通話の4形式で会話が進みます。1回およそ5分。手口はロマンス、投資、暗号資産、フィッシングの4本です。

2どこまでリアルにするか、が一番の問題だった

作りながら、ここでずっと手が止まっていました。

手口をどこまでリアルに再現するかで手が止まっているところ

手口をどこまでリアルに再現するかで手が止まっているところ

リアルにするほど教材としては効く。ところがリアルにするほど「詐欺のやり方の教科書」に近づく。この綱引きです。

リアルさの調整で悩んだこと

やり方問題
手口をぼかす怪しさが分かりやすくなり、体験する意味が消える
実際の手口をそのまま再現教材ではなく手本になりかねない
途中で必ず種明かしをする採用。引っかかった瞬間に、どこが分岐点だったかを見せる

採ったのは3つ目です。会話の途中で「いまの一言で信用しましたね」と割り込む。再現度より、気づく訓練になるかを優先しました。

1つ目は自分でテストして捨てました。ぼかした瞬間、会話が「いかにも詐欺」になって5秒で見抜ける。見抜けたら気持ちよく終わるんですが、持って帰るものが無いんですよね。気持ちよさは教材の敵でした。

2つ目は最初から選択肢に入れていません。うちが作ったもので誰かが誰かを騙せてしまったら、そこで終わりなので。

この線引きだけで、夜中にプロンプトを何日も書き直しました。途中で一度、全部消しています。

3断る練習ができる

知っていても、実際に断るのは難しい。相手は毎日それをやっているプロで、こちらは初対面の善人です。

断り方を何度でも試せるシミュレータの会話画面

断り方を何度でも試せるシミュレータの会話画面

このシミュレータでは、断り方を何度でも試せます。「考えます」と言ったらどう食い下がられるか。「家族に相談します」でどこを遮られるか。何を言えば会話が終わるのかを、自分で打ち込んで確かめられます。

やってみると分かります。私が試したときは、会話を終わらせるまでに3分前後かかりました。文字で読むと一瞬ですが、優しい声で食い下がられる3分は、けっこう長い。

テストしていて一番効いたのは、理由を言わずに切る、でした。理由を言うと会話が続くんです。「忙しくて」と言えば「では何時なら」と返ってくる。……たぶん現実でも同じです。

白状すると、自分で作ったAIに私自身が一度負けています。「資料だけ送りますね」に、つい「はい」と答えた。断ろうとすると、こちらが悪い人みたいな気持ちになるんですよね。

持って帰ってほしいのは手口の知識じゃなくて、逃げ方の型を1つか2つ。それだけでいい。

4使ってもらう場所の想定

防犯講座、地域の見守り活動、あとは家族での話し合い。スマホかPCとブラウザがあれば動くので、インストールの説明から始めずに済みます。会場で全員が同時に触れます。

防犯講座や家族での話し合いで使ってもらう場面

防犯講座や家族での話し合いで使ってもらう場面

触ってもらって気づいたのは、一人でやるより家族が横で見ている状態のほうが効くこと。「お母さん、いま信じたでしょ」と言える人がいるかどうかで、残るものが変わります。

なので2回やってほしいんですよね。1回目は本人だけで、2回目は誰かに見てもらいながら。この差がいちばん大きい。

ランキングと被害統計の画面も付けました。講座で「今日この会場、平均3分で信用しました」と出せると、途端に他人事じゃなくなるからです。数字は説教より強い。

5効いているのかどうかは、まだ分からない

この手のものは、作ったあとに本当に被害が減ったのかを測れません。防げた被害は、どこにも数字として出ないので。

効果を数字で証明できない教材を作り続けることについて

効果を数字で証明できない教材を作り続けることについて

効果を証明できない教材を作り続けるのは、正直きついです。「使いました」は届く。でも「これのおかげで助かりました」は原理的に届かない。効いているのか、いまも分からないまま置いています。

作ったもののうち、誰にも使われずに終わるものは普通にあります。ただ、これは当たらないと困る側のやつなんですよね。

それでも手を動かしたのは、カウンターで「変なSMSが来たんだけど」と見せられて、その場で止められたことが何回かあったからです。あれは私が偉かったわけじゃない。たまたま横にいただけです。その「たまたま横にいる人」を、機械で少しだけ増やせないか。狙いはそれだけです。

ご家族に年配の方がいるなら、このシミュレータを横に座って一緒に5分だけ触ってみてください。一人でやらせるより確実に効きます。講座や自治会で使いたい方はこちらから声をかけてください。触って「ここは違う」と思った所も教えてほしいです。

次は、会話ログをどこまで残していいのかで止まっている話を書きます。記録は教材の宝ですが、そのまま詐欺の台本でもある。答えが出たら、また書きます。

画面は直せます。信じてしまった時間は、直せない。

この記事を書いた人

NextCode(沖縄県宜野湾市)は、iOSアプリ・ホームページ/LP・NFCデジタル名刺・AI業務自動化を作っている開発スタジオです。 ここで書いているのは、実際に作って公開したものと、その過程で詰まったことだけです。

お電話でも大丈夫です → 098-959-6119

この記事が役に立ったらシェアしてください